相続と遺産分割協議分野の詳細説明
遺産分割の話し合いが進まない方へ
感情的な対立が大きい場合
かつては、遺産の評価や分割方法、過去の生前贈与などを巡って意見対立があり、法定相続人の間で一向に話が進まないケースが非常に多く見られました。
こういったケースでは、親族間の感情的な対立が激しく、当事者間では解決できないことはもちろん、相続人の一部に弁護士が受任しても紛争を収拾しにくく、家庭裁判所の調停手続に頼ることになります。
弁護士は、法定相続人の一部から事件をお受けし、他の法定相続人に連絡、遺産分割方法を提案していくことになります。
遺産分割協議は全員の合意がなければ成立しません。
お一人でも反対すれば、あるいは、賛否を連絡せず放置すれば、まとまる話もまとまらず、店ざらしになってしまうのです。
協議が成立するまでの間、預貯金の出金は、葬儀費相当額や各預金口座残高の3分の1に法定相続分を乗じた金額(但し各金融機関毎に150万円まで)に制限されています。具体的な制限内容は、全銀協のホームページをご確認ください(https://www.zenginkyo.or.jp/article/tag-f/7705/#c18679)
相続人間の交流がなく協議しにくい場合
昨今は、亡くなった方にお子さんがおらず、甥姪が代襲相続するケースも増えてきています。そういった場合は、法定相続人間でほとんど付き合いがなく、各人の法定相続分はそれほど大きな金額にならない、誰も音頭とりをしてまで話をまとめようという気力がないといった場合も増えてきました。
だからといって、様子見で放置していますと、遺産未分割のまま、相続税の申告期限(死亡後10カ月以内)を迎えてしまい、配偶者の相続税控除を使えないなどの不利益を受ける場合もあります。
早急に意見調整して協議をまとめるには、間に入って仲裁する人物や機関が必要になります。
家庭裁判所の調停を申し立てることも可能ですが、調停は申し立てても調停期日は1カ月以上先に開催されるのが通常で、調停期日を数回重ねている間に相続税の申告期限を過ぎてしまう危険もあります。
そもそも相続人間で交流がない事案は、亡くなった方に子どもがおらず大勢の兄弟姉妹やその子が相続人となっている場合や、子どもがいても、前妻の子と後妻の子というように離婚の前後で関係が切れている場合が多いのが実情です。
法定相続人が多数いる場合、遺産分割調停の当事者も法定相続人数に応じて膨れ上がります。
こういった場合には、調停前に、話をまとめられる人との間では、法定相続分譲渡をうけておき(幾分のお礼や対価を伴う場合もあります)、家庭裁判所には、法定相続分譲渡証書と印鑑証明書を提出し、当該譲渡者を調停当事者から排除する決定を受け、調停当事者をなるべく減らす方法を先に講じるのが得策です。
法定相続分譲渡を受ける際に対価を支払う場合には、いくら、いつ、支払うのかを明確に書面で合意しておくのが得策です。これを曖昧にしたまま譲渡を受けますと、後日譲渡者との間での紛争を残すことになりかねません。
いずれにしても、関係者が多数いる中で、どなたかお一人が全ての手続きや全法定相続人との意見調整の大役を買って出るのは非常に荷が重いです。
当事務所では、貴方に代わって、法定相続人全員への連絡や調整手続き、遺産の換価処分手続きを代行させていただきます。安心してお任せください。
ご相談にあたりご持参いただきたい書類
以下の書類をお持ちであればご持参ください。お持ちでないものはご自身の記憶に基づいたメモ書き程度でも構いません。
① 亡くなられた方の除籍謄本
死亡診断書のコピーでも構いません。
② 遺産の内容が分かる書類
不動産がある場合には、全部事項証明書(いわゆる登記簿謄本)と固定資産評価証明書(固定資産税の納付書でもOK)
③ 預貯金の通帳や定期預金証書
④ 株式や投資信託などがある場合には、証券会社の定期報告書など保有銘柄や投資内容が分かる書類
⑤ 遺言書が存在する場合には遺言書
(開封前の自筆の遺言書がみつかった場合には開封せずにご持参ください)
⑥ 相続人全員のお名前と住所・連絡先を整理したメモ
おわかりになる範囲で結構です。
紛争の原因になりやすい項目について
特別受益
被相続人から、生前贈与を受けている場合です。他の法定相続人も同等の贈与を受けていれば特別受益にはあたりません。
特別受益がある場合、その特別受益の金額は、被相続人の遺産総額に加算され、その総遺産額をもって遺産とみなし、このみなし遺産に法定相続分を乗じたものが各相続人の取得額となります。
特別受益を得ている相続人は、その時点で、取得出来る額から特別受益額を控除した限度でしか遺産を取得できなくなります。
その取得できる額以上のものを既に取得している場合は、この遺産分割においては、分割により受ける遺産はないということになり、特別受益を受けた相続人の相続額を超える部分は、残りの他の相続人等の負担となります。
遺産の範囲
よく問題になるのが、預金の無断出金・自己使用などの不当利得返還請求です。
法定相続人やその家族が故人の預金を生前に無断で出金して自己費消していたのではないかと思われるケースであっても、「無断で=故人の承諾がなかった」「出金した」「自己費消した」といった各事実そのものが争われることが多いのが実情です。故人から頼まれて出金した、出金した現金は全て故人に渡し使い道は知らない、故人のために必要な経費として使った等々の言い分が出てくるのです。
遺産の範囲に争いがありますと、遺産分割調停が不成立となった場合、当然には審判に移らず、先に地方裁判所にて、遺産の範囲について確定するための訴訟(不当利得返還請求訴訟等)を提起する必要が生じます。
担当する裁判所も異なりますし、事件が一つ増えることによって、遺産分割事件の解決は最低でも1~2年延びてしまいます。当然のことながら、弁護士費用も嵩みます。
しかも、不当利得返還請求で求めることのできるのは、不正に出金された金額の内、ご自身の法定相続分に相当する割合を乗じた金額に限定されます。
その上、無断で出金したことを証明するのはかなり難易度が高いと言わねばなりません。故人が出金者に通帳やキャッシュカードを預けた時点で故人の代わりに管理することを承諾したと推定される可能性もあるからです。
このような難易度の高い裁判を時間をかけて争うよりも、故人が承諾したことを前提に、出金者が特別受益を得ているとして、遺産分割事件で修正を図った方が得策ではと思われるケースも多くあります。
勝手に出金したのを認めるなんて!というお気持ちには反しますが、結果的にご自身が得られる遺産額が不当利得返還請求訴訟を別途起こす場合と相違ないのであれば、簡単に早く解決できた方が得策というものでしょう。
但し、これは法定相続人が出金した場合に言える話です。法定相続人でない人(よくあるパターンはその妻や子)が出金した場合には、特別受益とは認定されず、不当利得返還請求訴訟を提起せざるを得ないでしょう。
ところで、令和5年の法改正により、特別受益は相続開始後10年で時効となりましたので、注意が必要です。問題を先送りして放置しておられると預金の取引履歴の保存期間が経過するなどそもそも特別受益の事実を立証しにくくなることも考慮した上での制度改正です。
どういった手法がより早く、ストレスなくご希望の結果をもたらせるかも、ご相談いただき、ベストな方法を選択し、ご提案致します。
寄与分
被相続人の生前、被相続人のために無償で特別の寄与をした相続人がいる場合、寄与分として、遺産の中から相続分とは別に一定の金銭ないし財産を優先的に取得させることができる制度です。
但し、実務では、寄与分が認められることは少なく、認められたとしてもかなり金額的に小さいのが実情です。同居して介護したといった場合でも、故人所有の建物に無償で居住継続できたという居住利益も否定できず、公平の見地からすれば、介護業者に支払うのと同等の金額を認定してもらうのは難しいでしょう。介護保険を利用すれば、自己負担がかなり少なく済みますので、故人が免れた出費はごくわずかとの評価(年間数十万円程度)になりかねません。